1.国内の問題状況の法社会学的な考察に関しては、以下の点を確認した(その一部は研究発表(1))。(1)扶養・介護と相続の関係をめぐる諸議論では、民法に基づく扶養と家族員間の合意に基づく扶養との区別が曖昧にされているために種々の混乱が生じており、問題の理論的な整理を行うには、その区別を踏まえた検討が必要である。(2)相続や遺贈にかかわる裁判例の分析では、(1)判例は被相続人の意思をより重視する方向で解釈論を発展させているが、相続の性質の理論的理解(当然・即時の直接的継承)との関係で、容易には越えがたい重要な限界も残っている、(2)とくに相続の決済に向けた家族員間の合意を相続の裁判的処理の場面に持ち込もうとすると、日本法の下では種々の困難な問題が派生する、(3)療養看護を理由とする寄与分は、より広くより高額に認定される傾向にあるが、介護保険の実施がどういう影響を及ぼすかはなお不明である、などを確認した。(3)遺言・遺贈・負担付贈与等の実務慣行は、より広く定着しつつはあるが、他方で-家族内の合意を欠く場合にはとくに-紛争を惹起させるリスクも残している。なお、(4)公証人等の実務慣行の形成状況やその内容、及び、(5)日本の配偶者相続権の特徴に関する問題は、多少の研究作業を進めるにとどまった。 2.日本の社会福祉に関しては、(1)政策全般の展開動向をフォローしつつ、(2)介護保険の実施状況とその影響を把握することに意を用いた。若干の予備的な調査も行ったが、まだまとまった結果は得られていない。 3.フランスについては、(1)現に進行中の家族法・相続法の改正動向に目を配りつつ(一部は研究発表(2))(2)2000年秋に現地調査を実施し、多数の情報資料を入手したが、結果の取り纏めには至らなかった。次年度に補足調査を行ったうえで、全体の整理・分析を行いたい。
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