1.国内に関しては以下の点を確認した。(1)「相続させる遺言」の判例法理は、民法理論上はもとより社会実態的にも大きな射程距離をもち、遺留分減殺時の価額賠償に関する新判例とあいまって、遺言の意義と役割を拡張する可能性がある。(2)実際の遺言活用の動きも進展しているが、公証人が公表する諸データ等をみても、その内容の類型化や定式化を行うのは未だ難しい。(3)その点は、扶養・介護と相続にかかわる紛争事例の解決方式についても同様である。(4)そしてそうした状況の要因には、国民意識等の問題だけでなく、日本民法の家族財産法のあり方の特徴がある。(5)税制も、家族内財産関係の意思的処理をむしろ阻害している。(6)介護保険の実施状況の調査からは、同居家族の有無がサービス利用のあり方に強い影響を与えていることが確認されたが、家族財産関係のあり方への影響の如何は、なお析出しがたい段階にある。 2.それに対しフランスでは、(1)夫婦財産制が家族財産法中に大きな位置を占める上、(2)夫婦財産制上の合意や夫婦間贈与、共同相続人への贈与分割、遺言分割等の制度が民法上で用意され、(3)それが、長い歴史と経験的諸定式をもつ公証人慣行に支えられて、家族の必要に応じた柔軟な意思的処理を可能にしてきた。(4)税制も、そうした行為に細かい配慮を加えている。(5)懸案であった生存配偶者の相続権の強化も、2001年12月の相続法大改正で、意思的処理の新たな仕組みを伴いつつ実現された。(6)しかし、要介護高齢者の処遇問題の困難さは日本とも共通で、1997年末創設の「特別依存給付=PSD」は2001年7月に「対人的応能自立援助=APA」制度に改正され、(7)扶養義務に関しても新たな議論が展開し始めている。 3.要するにこの問題は当初の予想以上に大きな広がりをもち、日本だけでなくフランスでもまさに移行期・過渡期にある。その中で所期の研究目的を達成するには、家族財産法の仕組み全体の比較考察(一部は研究発表(1))を踏まえつつ、上記の新しい諸事項の個別的考察を更に進め、それらを総合化する作業が必要であり、成果報告書の作成にはなお暫らくの時間を要する。
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