本年度は、米国、欧州(EC)および日本に関する本研究の集大成として、市場支配力分析の観点から米国、欧州(EC)および日本の独禁法の規制を企業結合規制に加えて、私的独占、不公正な取引方法の規制についても比較研究をした論文を公表した。これは、日本経済法学会の50周年記念事業である『経済法講座全3巻』のうちの第2巻『独禁法の理論と展開[1]』の第4章「独禁法の比較法-市場支配力の視点から-」である。ここにおいては、企業結合規制における市場支配力の分析は、従来必ずしも市場支配力分析になじまないと考えられ、あるいはなじんではいても徹底していたとはいえない上記の分野においても極めて有用であることを明らかにした。なお、企業結合規制においてこれまでの研究対象とした規制基準と並んで重要な問題解消措置(remedy)については、平成15年度に行われる日本経済法学会シンポジウム「企業結合規制の再検討」の報告者になっており、現在「救済措置の設計と続きのあり方」という論稿を執筆中である(日本経済法学会年報24号掲載予定)。研究業績欄に記載していない業績として、経済産業省「競争政策研究会報告書中間報告(案)〜産業再生に向けた企業結合審査の迅速化・透明化〜)」に対して行ったパブリックコメントがある。 また、本研究に関連して、マックスプランク協会からの資金援助を得て平成14年4月から7月までドイツ・マックスプランク外国私法国際私法研究所に滞在し、ECおよびドイツにおける市場支配的地位の濫用規制を調査研究した。これらの研究の成果の一部として、ECにおける電気通信分野における市場支配的地位の濫用規制としてフレームワーク指令の実施状況に関する論文をとりまとめている。 このほか、市場支配力分析が有用である拘束条件付取引に関する判例研究である「プレイステーション事件」(業績欄掲載)、一見競争政策と相容れないとみられる国際経済法上のセーフガード措置について、競争政策の観点からも一定の合理的な説明ができること、および措置の改革の提案をした「経済法からみたセーフガード」(業績欄掲載)、市場支配力の悪用の典型であるカルテル等に対して摘発を促進するための装置としてのリニエンシー制度を米国法について調査研究した「米国反トラスト法における刑罰減免措置」(業績欄掲載)も本研究に関係する研究成果である。
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