ドイツでは、伝統的に「労働者」の範囲は、相手方(使用者)の指揮命令への従属という観点から画されてきた。しかし、この観点から「労働者」を厳密に定義すると、その経済的実態からすれば通常の労働者と変わらない者を、単に使用者による指図への従属の程度が低いという理由で、労働法上および社会保険法の保護から排除する結果となる。ドイツでは、「労働者類似の者」という概念を設定し、このような者に対して労働法規の一部分を適用することによって、厳格な定義から生じる問題を緩和しようとしてきたが、とくに1980年代以降に、多くの偽装自営業者が生じるなかで、そうした方策では不十分であることが明らかとなった。そのために、1998年と1999年に、社会法典は、社会保険制度の適用対象者である「雇用される者」に関する推定規定を設けることによって、偽装自営業者のうち労働者に近い者を社会保険制度に加入させることとした。それは、5つの基準をあげて、そのうち少なくとも3つの基準を満たす者については、それを「雇用される者」と推定する、というユニークな規定である。 この法律改正は、社会保険制度の適用範囲に関係しているだけであって、労働法上の「労働者」概念に直接的な影響を及ぼすものではない。しかしながら、労働法上の「労働者概念」と、社会保険法上の「雇用される者」とは密接な関係をもって発展してきたので、社会保険法上の新たな規定は、間接的には、労働法上の「労働者」概念に影響を及ぼすことが予想される。5つの基準のうち少なくとも3つの基準を満たす者を「雇用される者」と推定するという規定の仕方は、雇用・就労関係がきわめて複雑となり、「労働者」の範囲を一義的に決定することがきわめて困難になっている今日、労働法上の「労働者」の範囲を決定する方法としても参考にしうる。
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