本研究では、日本とフランスの刑事訴追過程について、わが国では主に検察官からの聴き取りを中心に、フランスでは検察官と予審判事の職務の観察と聴き取りを中心にデータを収集し、公判前の手続が実際にどのように行われているかを比較検討した。フランスでは、現行犯やその他証拠関係が明らかな軽罪事件は検察官によって公判前の処理が行われており、重罪事件や、証拠関係が明らかでなかったり、犯罪組織が関係していると見られる軽罪事件は、予審判事によって公判前の処理が行われている。検察官は、警察官からほぼすべての刑事事件を受理し、そのいわば交通整理をする責務を任っており、不起訴にするか、起訴猶予にするか、訴追するかは、司法省の作成した基準に従って判断されている。検察官の仕事の特徴は、迅速な判断である。警察は事件を認知したり、被疑者を検挙したり、身柄を拘束したりするときには、直ちに検察官に電話連絡をし、検察官の判断を仰ぐことになっている。このため、検察官はその場ですぐに指示を出すことを要求されている。これに対して、予審判事は事件を受け取ると半年から1年かけて被疑者、被害者、証人を尋問し、鑑定なども行い、公判のための証拠を集める。予審が終わった段階で、実質的に有罪か無罪かの証拠は出揃っており、公判は公開の手続で予審判事の判断を確認するものであると言えよう。検察官が起訴する事件では、否認する被告人は少なく、有罪率も極めて高いように見える。弁護士の活動は、独自に証拠を集めるものではなく、警察、検察官、予審判事の捜査を前提として、その証拠に依拠して弁護を行っている。以上のような刑事過程の主な関与者である、検察官、警察官、および弁護人の役割行動は、警察が検察官から制度上独立であること、起訴状一本主義の下で裁判官は捜査書類を読まず、第三者的審判者の役割を演じていること以外は、日本とフランスの間で極めて類似している。
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