本研究においては、近年刑事司法におけるパラダイム転換を図る理論として注目されている「回復的司法」(修復的司法)モデルの、わが国での可能性について検討した。もっとも、「応報的司法」モデルが支配的である(と解される)わが国の現況を前提とするならば、「回復的司法」モデル急な導入は、却ってこのモデルを「変質」させるおそれも危惧される。その意味で、現行司法制度の枠組みを維持しつつ、「回復的司法モデル」の段階的に導入する方向が考慮に値するように思われる。 「回復的司法」モデルの内容自体、多岐にわたるものであるが、特に注目すべき点は、犯罪への対応の中心に「被害者」を位置づけようとしたことにあるといってよい。そこで、本研究では、被害者との関係修復という要因を、刑事司法過程においていかに捉えていくべきかを検討することとし、その主眼は、「量的段階」におくこととした。同モデルをめぐる議論の焦点の1つは、「刑罰の意義・目的」との関係であり、それが最も先鋭化した形で現れるのが量刑段階であると解されるからである。 量刑においてこの問題を検討する際に重要となるのは、刑種・刑量の決定に際して「被害者関係的事情」をどこまで、どのように考慮していくかである。本研究では、すでに実体刑法理論との関係で、従来の量刑基準に「被害感情の充足」を代置し、あるいは付加することには多くの疑問があることが明らかにされた。また、処断形成過程における減免事由、特に中止未遂規定の本質に「被害者関係的」な要因を見出そうとする(わが国およびドイツで主張されている)見解にも問題があることが判明した。もとより、現行の刑法体系と「訣別」して、量刑においても「被害者関係的事情」を全面的に考慮することが、将にわたって否定されるものではない。しかし、同モデルの実証研究が十分ではなく、内容自体も論者による多様性が認められる現時点においては、慎重な対応が求められよう。
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