研究課題
本研究は、1997年10月11日施行の「臓器の移植に関する法律」の見直し(本法の附則2条参照)のための法的基礎を固める実践的理論を目的とする。わが国の臓器移植法は、臓器移植が生命保持ために不可欠な患者に対して脳死臓器移植を可能にするために立法化されたが、その内容は「臓器移植禁止法」に近く、法施行後今日まで脳死移植例の数も乏しく、現行法下では今後移殖例が増加する見込みも乏しい。その根本的要因は、わが国では脳死を人の死とすることへの社会的合意が余りにも弱く、脳死移植を推進するための世論の基盤が欠けていることにある。しかし、同時に法律自体が、脳死移植への国民の不信感を解消して移植を推進しうるような規定となっていないことが、本研究により明確になった。すなわち、法律の根本的欠陥として、(1)生体移植の規定が全く欠けており、それよりも絶対的に安全な死体移植の必要性が国民に理解され難いこと、(2)脳死を人の死と明確化した規定が欠けること(6条1項)、(3)臓器提供意思の尊重(2条1事)を担保する法制度が脆弱であり、むしろ書面主義の不備や遺族の拒否により提供意思が実現されえないこと、特に(4)15歳未満の死者からの臓器提供を可能にする規定が不備なこと、(5)脳死判定を含む移植手続を公正化・透明化するための機構・制度も充分でないことなどがある。そこで、これらの問題点について、ドイツ・フランス・アメリカ・韓国等の法制度との比較研究を基礎に研究計画に沿って法改正のための要点に関して具体案を提示することが可能になった。その成果の主要部分については、『臓器移植法見直し論』(信山社)の図書を刊行準備中である。また、ドイツの移植法成立過程、アメリカ・イギリスの脳死・臓器提供意思等に関する最近の論議.立法提案、わが国における脳死移植反対論の批判的検討等については、別途研究論文の公表を今後も続けるべく準備している。
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