本年度におこなった研究実績は以下の通りである。 1.まず民主主義体制の定着の条件に関する文献を分析し、それらが(1)社会の構造、(2)当事者の行動・制度、(3)国際的要因のそれぞれを重視する見方に分かれることを確認した。さらに(1)の中には、(a)近代化による中間層の増加、(b)諸社会階級の力のバランス、(c)市民社会組織の成長を強調するものがあり、(2)の中には(a)当事者の文字通りの行動(の慎重さ)ないし(b)選ぶ制度の適切さに注目する見方がある。(3)についても(a)国際組織や外国政府・NGOの活動の直接の影響を重視する見解に対して、(b)経済・文化活動を通しての外国の価値観の影響を重視する見方もある。こういった知見の一部は平成12年10月に発行された学会誌に、「民主化と国際政治・経済」というタイトルの論文として発表した。 2.以上の理論的検討と平行して、東欧、東南アジア、アフリカ、中東、西欧の民主化についての文献を分析した。東欧・アフリカの民主化に関しては「市民社会」の役割に言及するものが多々見られるのに対して、東南アジアについては経済発展との関係で、中東については宗教との関連で議論する文献が圧倒的に多い。しかしそれぞれの地域について、多数意見に対して、批判的な見解も存在する。西欧(現代ではなく19世紀-20世紀)の民主化については当初の研究計画には入っていなかったが、比較のためにあえて付け加えることにした。この地域については、比較的長期にわたる歴史展開の中で、国際政治の影響を受けつつ、諸社会階級が民主主義制度を受け入れていく過程として民主化を理解する見解が存在する。
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