今年度は、1960年代後半から現在までの政治参加の諸形態と情報ネットワークの活用との関連を考察した。 まず、米国における政治参加運動とインターネット技術の発展との関連について考察した。70年代前後における米国西海岸では、大衆社会化への懸念とベトナム反戦運動の中で、草の根の異議申し立て運動が活発に展開された。そうした時期に、米国国防総省の核戦略の基礎研究から生まれたインターネット技術の研究は、従来までの垂直的なサーバ管理システムから、自立分散型コンピュータネットワークシステムを生み出したことで、市民の政治参加とコンセプト上での共通点を持った。こうした情報ネットワークを活用した草の根運動は、反戦平和、女性・マイノリティー差別反対、第三世界との連帯などの課題を掲げていた。 このような米国における市民の政治参加運動と情報ネットワークとの関連について、日本の事例と対比しながら、情報化社会における政治参加の日米の相違について考察した。日本の市民の政治参加運動においては、本格的なコンピュータネットワークの利用は米国に比べてかなり遅れ、ようやく1990年代初めからである。しかも、政治参加運動にコンピュータを導入すること自体に拒否的な感覚が強く、いくつかの例外を除けば、きわめて限られた事例での利用にとどまっている。 このような日米間での時代的相違が、両者における特色を規定することになる。いくつかの事例について実態調査をすることで、政治参加におけるインターネット利用の意義やそれによる組織や活動形態の変化を考察した。
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