本年度は、帝国システムの世界史的比較を進めて「国民帝国」概念をさらに検証することに重点を置き、その整理を進めた。その際、まず近代において「国民帝国」が現われたことの前提としての王朝帝国論との異同について明らかにし、それらと「国民帝国」とがいかなる相違を歴史的に刻印されてきているのか、さらにそれが第二次世界大戦後の脱植民地化過程おいていかなる変容を伴いつつ存続してきているのかを中国およびイギリスのコモンウェルスの事例に即して検討した。次いで、本来の課題である日本の近代国家の国制的変化を明らかにするという目的に即して、「国民帝国」としての形成と展開を実証的に明らかにしていくために国立国会図書館、国立公文書館などで史料・図書の収集や複写を行った。 これらの二つの課題のうち、前者の中国の史料調査については、昨年度来、準備を進めてきた中国の研究者との情報交換をもとに、上海の復旦大学や上海図書館、北京の北京師範大学、北京外国語学院、北京図書館などで実地史料調査を行い、大量の史料の発見と複写を行うことができた。本年度の後半および次年度にかけて、これらの蒐集史料の解読をもとに、日本の国民帝国が東アジア諸国に対して植民地統治を通じていかなる影響を与え、どのような反応を惹起してきたかを思想史的に解明していく。また、今年度は、満洲国建国70周年でもあったため、満洲帝国というシステムが近代世界史において、いかなる意義をもったかについても明らかにした。こうした成果を承けて、次年度には日本の国民帝国の国際法・憲法・行政法などの東アジアにおける継受について検討を進めたい。
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