本研究は植民地を有するに至った近代日本の統治システムが総体としていかなるものであったのかを史料的・理論的に整理し体系化することによって「国民帝国」という概念を新たに提起し、それによって明治国家の世界史的位相について新たな意味付けを行うとの目的をもって出発し、ウェストファリア体制以降の国際体系のなかにあった日本の近代国家としての二重性-すなわち国民国家形成を進めながら同時に植民帝国へと変容していった国制的性格と法政理論の特徴について明らかにするという課題の下に史料的蒐集と論理的精緻化を図ってきた。最終年度においては、王朝帝国と国民帝国との異同について理論的解明を与えた論稿を発表した。ここで国民帝国とは「主権国家体系の下で国民国家の形態を採る本国と異民族・遠隔支配地域から成る複数の政治空間を統合していく統治形態である」と定義した。そのうえで、国民帝国とは(1)世界帝国と国民国家の拡張でありつつ、各々がその否定として現れる矛盾と双面性を持ち、(2)その形成・推進基盤が私的経営体からナショナルなものに転化し、(3)世界体系としては"多数の帝国が同時性をもって争いつつ手を結ぶ"という競存体制とならざるをえず、(4)その本国と支配地域とが格差原理と統合原理に基づく異法域結合として存在するものである、という4つのテーゼに収斂するものであることを提起した。今後は、このテーゼに沿って朝鮮・台湾・満洲国などの支配地域を含むことによって形成されていった国民帝国・日本の統治システムの展開と法政理論との牽連性について総合的な分析を加えた論考を発表していく予定である。
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