「一国・二制度」構想は中国の平和的国家統一の戦略であり、この構想の適用対象は香港・マカオ・台湾の三地域である。香港とマカオはすでにイギリス、およびポルトガル両政府によってそれぞれ中国に返還され、中国の特別行政区となった。香港は董建華政権の二期目となったが、返還前とは異なり、経済の低迷、財政赤字の増大に苦しんでいる。また、董政権は目下「国家安全法」の制定に取り組んでおり、これはこれまで香港住民が享受してきた自由を大きく阻害する危険性を持っている。このように、香港は中国との一体化に向けて、大きく変貌しようとしている。一方、マカオについては、すでに返還前から中国の政治的コントロール下にあり、大きな変化はない。そういった意味で、中国の「一国・二制度」構想は香港とマカオに対してはうまく適用されているということができる。 そして、統一の最終目標である台湾に対しても、中国の統一に向けての攻勢は依然として続いている。台湾の企業は経済的不況の中で大挙して中国に進出し、投資や工場の移転を積極的に進めている。そのため、中台間の経済における相互依存は大きくなり、もはや台湾の経済は中国なしでは存続できないほどのレベルにまで達している。その結果、財界の圧力もあり、陳水扁政権は「三通」の開放を迫られている。しかし、経済における相互依存関係にもかかわらず、政治的には、中台関係にほとんど進展は見られない。中国の「一国・二制度」構想が台湾でそのまま受け入れられる可能性は、陳水扁政権においてははもちろんのこと、「国・親連携」を強める野党が次の選挙で政権を取ったとしても、ほとんどあり得ない。 「一国・二制度」構想は、一党独裁の中央政府が中央政府であり、民主化した台湾政府が地方政府になることを想定しており、このような前提が変化しない限り、中台関係に変化が現れることはないだろう。今後、「天安門事件」の再評価や、中国国内の民主化がどの程度進んでいくかといった点が、中台間に変化をもたらす要因となろう。
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