中国が国家統一の問題を武力の行使によってではなく、平和的な手段で解決するために考え出したのが「一国・二制度」構想である。この構想はそれぞれ英国、およびポルトガルの植民地であった香港とマカオに適用され、二地域とも平和的に中国に統一され、中国の「特別行政区」となっている。しかし、香港、マカオともに「高度の自治」を享受しているとはいえ、民主化が達成されていない中国の意向の下で、社会の安定が強調され、民主化の発展は制限を受けている。一方、中国にとって統一の最終目標である台湾は、総統を直接選挙で選出できるほどの民主化を達成しており、中国の提案する「二国・二制度」を受け入れることはきわめて難しく、逆に中国人としての意識よりも台湾人アイデンティティーが急速に深まっている。本研究では、国家統一のための「一国・二制度」構想の限界を示すとともに、国家統一のための条件として、民主化、および基本的人権の問題がますます重要になってきていることを指摘しようとするものである。
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