政治的リーダーシップ論は、政治思想の試金石である。これが、「19世紀イギリス政治思想史における政治的リーダーシップ観」と題した本研究を進める中で、従前以上に強まった私の確信である。この見地からすると、19世紀のイギリス政治思想は、否、より正確に言えば、さしあたり近世を起点にとって19世紀までのイギリス政治思想は、きわめて興味深い様相を呈する。 「改革の時代」であった19世紀イギリスの政治思想や政治的イデオロギーを見る際、政治的リーダーシップ、あるいは権威・信従関係をめぐる議論は、一方においては、デモクラシーへのスタンスの取り方と、他方におけるイギリス国制の現状理解(さらに、その前提となる、とりわけ名誉革命以降の国制史理解)が基本的枠組となっている。本研究では、最終的に、こうした枠組を念頭に置いて、まず、トーリー系の異色の著作家・政治家であるディズレーリの著作を検討し、その結果をふまえて、政治的リーダーシップの問題を真正面から取り上げたバジョットについて、1850年代から60年代にかけての諸論文と『イギリス国制論』を中心に考察した。その結果、『イギリス国制論』の主題の一つである「尊厳的部分」との関連で展開されているバジョットの信従論を理解するためには、名誉革命後とりわけスチュアート家からハノーバー家への王朝交替期にかんする彼の分析が鍵をなしていることを明らかにした。具体的には、この分析に示されている世論形成に関連する信従と関連しない信従との区別、および国制上の権力配分が信従に与える影響への注目が、『イギリス国制論』の複雑な議論の基本的枠組となっているという結論を得た。
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