本研究は、20世紀初頭日本の帝国主義論の諸相について考察した。当時の日本で帝国主義を主張した人々はどのような論拠を示し、どのような工夫をしたか、帝国主義を批判した人々は何を根拠としたか、そこに国際社会をめぐるどのような見解の対立があり、どの点では見解が共有されていたかに注目しながら、当時の主要な思想家の著作、新聞雑誌の記事などを閲覧し、調査を進めた。 本研究が明らかにしたのは、帝国主義という言葉が日本で初めて用いられたのは1898年であり、欧州列強および日本による中国分割とともに、米西戦争をめぐる米国の帝国主義論争が影響していたこと、1904-5年の日露戦争に至る過程のなかで、日本の膨脹を主張する論者といえども、露国の帝国主義を非難する関係上、ためらいなく帝国主義を主張することはできなかったことなどである。」 本研究は、対外的な帝国主義の主張や批判が、社会主義やキリスト教などの社会改革の主張とどのように関連していたかを検討した。とくに19世紀末米国の帝国主義批判者ヘロンが村井知至や木下尚江に及ぼした影響に注目して、論文「社会的キリスト教と木下尚江」をまとめた。さらに、木下の生涯にわたる帝国主義批判や非戦論の思想については、『野生の信徒木下尚江』という一書を刊行した。 本研究は、20世紀初頭の帝国主義批判が日露戦争に対する非戦論へ展開した経緯について、論文「日露戦争と非戦論」で検討した。日露戦争においては、第一にキリスト教、第二に自由主義、第三に社会主義の見地から、戦争と膨脹に反対する思想が表明された。そのキリスト教のなかでは、トルストイの思想の影響がきわめて大きかったことを明らかにした。
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