当該研究者両名は平成12年度〜平成13年度の2年にわたり、世界貿易機関(WTO)の紛争処理制度について、理論および実証的研究を共同で行った。国内の裁判をモデル化するのに使われる合理的選択のモデルをWTOに応用する際、どの程度の説明力があるかを調べるのが当初の目的であった。実証研究はWTO事務局のみならず、米国やEUなどでも聞き取り調査を合わせて行った。 2年間の研究により明らかになってきたことは多岐にわたるため、簡単に要約するのは困難であるが、国際貿易制度の「法化」の原因と帰結という観点から、2点にまとめることができよう。まずWTOの設立により、多国間貿易システムは高度に司法的な制度に変貌してきたが、その原因(あるいは目的として)国内政治のマネッジという側面があることがわかってきた。つまり、国内での経済的調整には、国際レベルにおける司法的手法がある程度有用であるということである。また法化の効果という面では、力の平準化と遵守度の向上という2つの効果があることがわかった。つまり、GATT時代はきわめて外交的な紛争処理システムであったため、国力が紛争の結果に反映される余地が大きかったが、WTOのような司法的なシステムでは、その効果が削減される。またGATTでは遵守度にやや疑問が残ったものの、WTOになってからは若干の例外を除いては遵守度が一般に向上しているように見うけられる。 理論的には、当該研究者が予想していた通り、国家を単一の合理的アクターとみなすモデルはある程度有用ではあるが、それに国内政治による制約を加味して分析するほうが、WTOの理解には必要であることが明かになってきた。
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