研究概要 |
本年度は,まず文献の収集につとめた。移民や人の移動に関する洋書および和書のほか,米国の各研究所による移民に関する報告書を集めたマイクロフィルム(Immigration;Special Studies Series,1969-1984,18reels)を購入した。 本研究は,米国の移民史を米国の対外戦略と結びつけて考察するものであり,とくに本年度においては「冷戦の終焉」前後の変化と移民政策との関係に焦点をあてた。一般には1989年からのソ連・東欧共産圏の崩壊が一時代を画したものとして論じられるが,筆者は最近は「冷戦の終焉」による断絶よりは,連続性に関心をよせるようになった。米国の対外戦略の変化にしても,東アジアに関しては「冷戦の終焉」は欧州ほど明確でなく,むしろ国家間の対外政策には連続性がみられる。また,移民史に関しても,技術者の優遇は英領植民地だった時代からの一貫した米国の政策の特徴である。 しかし,情報技術革命の進展に伴い今日では,米国だけでなく日本,欧州諸国も海外からの優秀な技術者の獲得を目指している。そうした中で筆者は,米国の対外戦略の変化だけでなく,資本主義の変容と国民国家との関係が米国移民史の分析対象として重要であると考えるようになった。 以上は,大きな枠組みからの筆者の関心の変化であるが,米国の90年代に関しては,経済が好調な間は移民に対する摩擦は軽減される。しかし,持続した好景気が米国で崩壊しつつある今日,移民に対する軋轢が増加することが懸念される。 筆者は3月に米国への出張を予定しており,こうした本年度の成果を論文として発表すべく,現在準備中である。
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