従来、日本における米国移民史研究では、エスニシティーの問題という観点から研究がなされることが多い。移民史と民族学、杜会学、人類学、心理学、文学などとの接点が追究されてきた。しかしながら移民史は米国の国家形成や対外関係に密接に結びついている。 筆者はこれまでに米国の対外政策(特に対共産圏戦略)と輸出管理との関係を研究してきたが、移民研究を行うことにより、第二次世界大戦後の米国の対外政策履行において、人の移動と物の移動が連動して動いてきたことが鮮明になった。筆者が行ってきた戦後の対共産圏輸出規制網の研究は、移民史研究とは全く別個のように思われ、筆者自身も長いあいだ両者を別個の研究ジャンルとみなしてきた。しかし、実際はそうではなく同じ分析視角で研究することができる。 「冷戦の終焉」はどのような連続性と非連続性をもたらしているのだろうか。対共産圏戦略の消滅という点ではあきらかに非連続性があり、他方、テロ対策、大量破壊兵器の不拡散、テクノナショナリズムなど-いずれも「冷戦の終焉」以前から輸出管理、移民規制のどちらにもみられるものである。移民史に関していえば、そのほかにも伝染病対策などの面においても、これは英領植民地時代から今日までの連続性がある。移民規制と地域との関係についていえば、2001年9月のテロ攻撃の衝撃は大きく、今日の時点では中国や日本ファクターより中東地域からの移民に関心が集まっている。米国の規定する「ならず者国家」(rogue nations)と人、物の移動との関係をさらに分析することもできるだろう。
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