本研究の課題は、「マハートマ(大いなる魂)」と呼ばれたインドの国民的指導者ガンディーを、20世紀のナショナリズム運動・思想と関連づけ、政治的・歴史的に分析することである。第一の焦点は、カリスマ的人物ガンディーが民衆政治の世界でどのように歴史的に「創造」されたのかであり、第二の焦点は、ナショナリストのエリート政治の世界で聖者姿のガンディーが必要とされたのはなぜか、である。第三に、この民衆政治とエリート政治の合体した構築物としての国民国家を捉え直すことである。「ガンディー-民衆の神、国民の父」はこうした問題設定を示した。 民衆政治という学問的フロンティアに、フィールド調査・資料調査・方法論という3つの側面から取り組んでいる。平成12年度は、国内での資料調査と研究を踏まえ、意欲的なフィールド調査を行った。現地での資料調査とともに、デリーと北インド地域での調査では、現代の都市と農村の住民の意識調査によって、民衆にとっての国家やナショナリズムの意味を調査した。その一つの成果として「暴動の政治過程-1992-93年ボンベイ暴動」をまとめ、都市のスラム社会での民衆的なナショナリズムの政治を論じている。 最近の社会的激動の中でインドは厳しい政治的緊張を抱え、まさに「今」を捉え直す上で歴史的なガンディー論や独立史が政治論争の的となっている。多くの不毛な議論を越えるために、ガンディー自身と彼の思想であった非暴力主義や市民不服従を、ジェンダーの視角から分析する作業に関わるのが、「世界政治をジェンダー化する」「女性と民主主義」「ジェンダー研究から見た南アジア」の3点である。いずれにおいても、インドにおける非暴力主義的な女性の改革運動とその思想を題材に、歴史的・政治的に民族や宗教をめぐる暴力的紛争を克服する可能性を探り、新しいガンディー像を描き出そうと試みた。
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