われわれはこれまでアジア、とりわけパキスタン、インドネシア、マレーシアのイスラーム諸国を中心に、民主化と軍部との関係についてそれぞれ研究を行ってきた。具体的には、イスラームと民主主義は両立しうるという根源的な問題から、現実の軍事的動向までを視野に入れて検討を重ねてきた。その結果、a.冷戦後の近年、民主化の流れは、イスラーム諸国にも大きな影響を及ぼしており、体制側もそれを全く無視することが出来ない状況にある。こうした民主化の高まりと平行して、イスラーム復興や民族独立を求める運動も活発化し、さらに軍部の台頭を招いていること。b.軍部の置かれた状況もまた、民主化やイスラーム復興の高まり、そして経済のグローバル化などにより変質していることが確認された。 以上の実態を明らかにするために、これまで本研究はいくつかの作業を行ってきた。 1つは、ジョン・エスポズィト/ジョン・ボル著『イスラームと民主主義』の翻訳の出版である。この翻訳書は昨年の8月に成文堂から出版され、イスラーム研究者だけでなく、国際政治や地域研究を専門としている研究者にも広く読まれている。 2つ目は、イスラームと民主主義に関する資料収集である。現在、欧米の出版物を中心に基礎的な資料・文献は入手したが、その多くが2次資料で、1次資料が少ない。そのために今年の夏、パキスタン、インドネシア、マレーシアを訪問し、軍の情報局や中心的な民主化運動組織を回り、そこで発行しているパンフレットや資料を収集するつもりである。
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