研究期間最後の年である本年度は、19世紀後半〜第一次大戦期、なかでも世紀転換期における経済学・社会学を中心に、社会科学方法論に関する著作・文献などの資料収集・分析を行なった。社会科学論に関しては、当時のドイツにおける学問状況を考慮して、歴史学・歴史哲学における方法論、価値論等に配慮した。 世紀転換期における経済学方法論に関する議論は、ウィーン学派と歴史学派との間のいわゆる方法論争と、M.ヴェーバーの発言をきっかけとする価値判断論争の二つに代表されるが、本研究でも焦点はこれらに絞られることになった。注目された点は、ヴェーバーの「価値自由論」それ自体は、19世紀を通じた社会科学方法論とりわけ経済学方法論の展開において、必ずしも斬新なものであったわけではなく(ex. 同様の問題を論じたJ.S.ミルの著作は、当時のドイツでもよく知られていた)、問題はむしろ、当時のドイツの知的状況が、マルクス主義と実証主義の影響の増大にみられるように、社会科学の自然主義的・科学主義的な構成が強まる中で、一方における科学の専門化・主知主義化、他方におけるこれらの因果論的・決定論的な性格に対する批判との相克の中にあったことである。これは、実証主義的な現代経済学主流への方法論的疑義の高まりや、科学における「形而上学的なもの」の存在を認める科学論の近年の傾向と符合する。しかし、当時の議論と重ねたときに明らかとなるのは、歴史的現象としてある経済現象の理解について、現代の経済学は人間の価値や関心事との関連を見失いつつあるといわざるをえないのではないか。これが、本研究において得た研究担当者の知見である。 なお、当初予定した外国出張は、研究の進展状況ならびに本務との関係で実施できなかったが、本研究の成果については、近い将来において現地のレビューを受けたいと考えている。
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