研究概要 |
バブル経済崩壊後の不況と折からの金融システムの不安定性に増幅されたマクロ経済環境の悪化に直面して,企業の人事制度を能力主義・成果主義の色彩の濃いものに再編しようとする動きが一段と加速してきた.こうした状況の下で,本研究の目的は,以下の3つの方法を異にする分析を重層的に実施することである.(1)聞き取り調査の手法を用いて,個別企業の人事担当者やライン管理職を対象に,人事制度の改革状況やその運用状況を厳密に聞き取る.(2)アンケート調査の方法により,人事制度の改革状況やその運用状況に関する大量観察データを収集し,個別事例でみられた事象の代表性を確認する.(3)アンケート調査のデータと(目的外使用申請予定の)政府統計のミクロ・データとのマッチング(複数データセットの接合)分析の方法により,企業内人事制度改革が大規模なサンプルを有する政府統計のレベルでどのような変化をもたらしているのかを確認する. 本年度は,先行する研究や調査の包括的展望を行った上で,人事制度改革を実際に行っている企業の人事担当責任者を対象として,in-depthな聞き取り調査を実施した. (1)まず,本研究に関連する研究文献の包括的サーベイを行った.とりわけ,日本における調査研究報告書や関連文献を包括的に再吟味し,人事制度改革を調査する際,どのような点に留意しなければならないかを確認した.また,いわゆる「人事の経済学」や「組織行動論」の理論的・実証的知見を吟味した. (2)しかる後に,聞き取り調査を実施した(6社).その結果,調査対象の企業のすべてが過去4年間に人事制度改革を実施していること,改革の方向は職能資格制度の運用の厳格化・職能給割合の上昇,ならびに職務給制度への転換に大きく二分されることが明らかとなった.
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