研究概要 |
1.バブル経済崩壊後の不況の長期化などのマクロ経済環境悪化に直面して,日本企業の人事制度を能力主義・成果主義の色彩の濃いものに再編しようとする動きが盛んである.こうした状況を踏まえ,本研究では,研究期間全体を通じ,(1)聞き取り調査の手法を用いて,個別企業の人事担当者やライン管理職を対象に,人事制度改革やその運用状況を厳密に聞き取る,(2)アンケート調査の方法により人事制度の改革状況やその運用状況に関する大量観察情報を得る,(3)政府統計レベルで変化の状況を確認する,この3つを課題として設定した. 2.聞き取り調査実施の結果,人事制度改革を行った企業において,従業員側が,その改革をどう受け止め,拡大した処遇格差に対してどのように反応したのかということが緊急の分析課題であることが判明した.そこで,上記の課題設定(2)に対応し,企業アンケート調査を実施して,約200社の回収結果から人事制度改革の手法・類型などの全体状況を把握した.しかる後に,(3)の内容を,人事制度改革を実施した個別企業に焦点を当てて従業員意識調査を実施し,合わせて当該企業の人事データを分析するという方向へ内容調整を行った.その結果,職能資格制度を廃止して職務等級制度に移行したA社においては,人事部門の意図通りに,賃金格差の拡大や成績不良者の賃金下落が発生しているものの,一部の管理職層を除いて,労働意欲は全般的には高まっていないという興味ある分析結果が暫定的に得られた.
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