中国の経済発展を分析するために本研究が注目している2つの視点は、郷鎮企業の行動目的と国内労働移動の形態である。郷鎮企業の行動目的が従業員1人あたりの利益の最大化であるかどうかは中国の経済発展の分析の重要なポイントであり、昨年10月に南京大学を訪問して、範从来教授および経済学部の研究者と意見交換を行った。さらに文献研究による考察を加えて、現在、「郷鎮企業の所有形態と行動目的」として纏めつつある。これとは別に、企業が従業員1人あたりの利益の最大化を目的とする労働者管理企業の理論分析はここ数年間研究をしてきており、その成果の一部を昨年、論文としてStudies in Regional Science誌に発表した。 一方、中国国内の労働移動についても、西部内陸部から東部沿岸部への地域間労働移動と農村地域から周辺の郷鎮企業に職をもとめての地域内労働移動の二面が認められることを、「中国国内労働移動の2面性」として、纏めつつある。来年度は現在のものをさらに精緻化したうえで発表していくことを考えている。これと同時に最終的にこうした結果を踏まえて、ルイスモデルやハリストダロ型の失業の可能性を考慮した経済発展モデルに労働者管理型の企業行動を取り入れた場合の経済発展の理論分析に取り組む予定である。そして、郷鎮企業が中国の経済発展に果たす役割を労働市場を通して明らかにしたい。
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