経済学において、近年、人口のグレー化(高齢化)と少子化にともなう人口統計学上の問題が労働市場と福祉国家の財政的危機の問題として取り上げられ、議論されているし本研究の課題は、第1に、こうした議論の背景に想定されている「高齢者像」がどのようなものかを明らかにし、第2にこの「高齢者像」は、歴史的に作り上げられたものであり、変化するものであることを明らかにし、第3に、新たな「高齢者像」はどのようなものなのかを明らかにすることである。 この課題のために行われた研究は、1)過去10年間に主としてアメリカやイギリスで発表されたエイジング研究の成果(老年社会学、社会老年学)を蒐集し、そこでの「高齢者像」はどのようなものであるがを分析し、2)年齢にもとづく差別(エイジズム)の構造を、フェミニズムによる性にもとづく差別(セクシズム)批判と対比する形で分析し、3)イギリス稿祉国家の成立のなかでとりわけ大きな意味をもった老齢年金計画と定年制の成立をめぐる議論(19世紀末から20世紀前半)をとりあげ、そこから生み出されたネガティヴな「高齢者像」の問題を分析したことである。 こうした分析をとおしてえられた成果は、(1)現代のエイジング研究の状況を明らかにし、研究の課を展望したこと、(2)ボーヴォワールとフリーダンの言説をとおして、現代のエイジズムがセクシズムと同じ構造をなしていること、高齢者む女性も「社会的労働」から疎外されていることに根本原因があること、(3)「高齢者」をとらえるパラダイムの転換がはじまっていること、この転換の機軸は「社会的労働」をどう取り戻すかということ、つまり「プロダクティヴ・エィジング」という観点から「高齢者像」を作り直す必要があることである。
|