本研究は現代における貨幣・金融の組織性とその不安定性の理論と現実に迫る考察の枠組みを体系的に再整備しようとするものである。日本に蓄積されてきたマルクス経済学の蓄積を活かしつつ、欧米マルクス学派との協力を図り、とくにその点でロンドン大学のC.Lapavitsas博士を事実上の共同研究者として予定していた。本年度は2年計画の第1年度ににあたっており、当初の計画に沿って、テーマに関連する最近の文献リストをととのえ、必要な文献を点検・収集するとともに、研究課題全体についてその内容を検討し、夏休み以降、まず理論史の部分から逐次検討成果のとりまとめの作業をすすめた。この間、7月初旬にはシドニーのマクオリー大学での日本経済をめぐるコンファレンスに招かれ、本研究をすすめる観点から日本の金融危機とその対応について報告・討論をおこない、また同月末に来日したカリフォルニア大学のG.Dymski教授からも最近のポスト・ケインズ派の研究動向などについて貴重な示唆をえることができた。さらに9月にはロンドン大学にLapavitsas博士を訪ね、本研究の成果を日本語の共著として出版する計画とその内容につき、集中的にうち合わせをおこない、あわせてオックスフォード大学のA.Glyn氏にも貴重な助言をえた。国内でも本研究のテーマに関心の深い14名の専門研究者とほぼ月1回づつの研究会を國學院大學において定例的に開催し、種々の協力をえている。そのうちの7名の研究者による論文集『資本主義経済の機構と変動』を編者としてとりまとめ、本研究の一端をこの論文集に論文「資本主義経済の景気変動と貨幣・金融的不安定性」として執筆し、近々御茶の水書房から刊行する運びである。Lapavitsas博士との共著として公刊したい本書の最終成果の内容も全11章の予定のうちほぼ半分程度は、草稿にまとまりつつある。来年度はこれをうけて、全体の研究の完成をめざしたい。
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