東南アジア諸国は、1999年に東南アジア諸国連合(ASEAN)にカンボジアが加盟したことによって、すべての主権国家がASEANに結集することになった。本研究では、それにかかわって、東南アジア諸国が経済統合する場合に、財政がどのよう役割を果たしうるか、または、果たせないかということから、はじめた。ちょうど、時期的に財政と経済統合とを議論する機会となった。 続いて、1997年に生じた通貨危機からの回復過程において、為替レートとインフレーションがどのように進行したかを分析した。財政の果たした役割は、きわめて大きかったが、それが経済成長に与えた影響かというと別問題となる。少なくとも景気後退を食い止めるには、財政が果たす役割が大きいということがわかった。 さらに、景気後退下で、生活水準がどう変化したか、言い換えると実質賃金がどのように変化したかを分析した。やはり、財政支出を拡大できたタイやマレーシアでは、生活水準の低下は少なかったが、インドネシアでは大きく厚生を下げた。 財政と経済成長のかかわりに関する研究は、貿易と経済成長のかかわりに関する研究などと比べると、きわめて少なく、その意味で十分に研究を行う意義があったといえよう。しかし、その成果は対象となる地域を東南アジアに限ったこともあって、必ずしも大きなものではなかった。また、以前から研究を続けてきた安全保障と財政とのかかわりについても、東南アジア諸国を視野に入れて分析を行ったが、開発途上国の安全保障支出は経済成長と負に相関することがわかったにとどまり、その因果性までたどり着けなかった。 今回の研究は、財政支出と経済成長とのかかわりにとどまってしまったが、同様に重要な問題としては、税制や租税収入と経済成長のかかわりもある。この問題について、今後は研究を続ける所存である。
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