本研究では、経済時系列分析において様々なモデル分析の基礎となるガウス性ならびに線形性の統計的検定法を多変量時系列の枠組みへ拡張することを目的とするが、今年度は経済時系列に対する多変量ガウス性検定の構築とその統計的性質の理論的基礎研究および実際のデータを用いたパイロット研究を行った。具体的には、以下の通り。 1.エルミート多項式にもとづくガウス性検定の多変量化: 正規変量のエルミート多項式変換による特徴づけを利用した多変量正規性検定にもとづいて構築された一変量定常時系列のガウス性を検定する方法を多変量へ拡張するための理論的基礎研究。 2.バイスペクトラム検定の多変量化: Subba Rao、Hinichらによって提案されてきたバイスペクトラム検定(3次モーメントのフーリエ変換にもとづくバイスペクトラムがガウス性のもとではゼロとなる性質を利用するもの)を多変量へ拡張するための理論的基礎研究。 3.実際の経済・経営時系列データを用いた分析事例研究: 価格と売上(あるいはマーケットシェア)時系列を用いて様々な多変量非線形モデルの可能性を探った。その結果、周辺統計量としては高度に非線形な2組の時系列は、2変量の枠組みでは線形となる興味あるケースを発見し、これを共線形性(Co-linear Relation)と呼び、多変量化をすることによって1変量とはことなる世界が生み出される可能性が示唆され、次年度以降展開される研究の重要な知見を得ている。この他に、線形な世界でマーケットシェアモデルの動学化を実現するモデルも開発した。
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