研究概要 |
本研究の目的は,各国の所得分布を比較するための基礎的な計測手法の理論的考察を深めるとともに,世界各国から得られる国民所得・人口・国内所得分布表を用いて,世界的規模での所得分布変動と各国所得分布の相対的位置の変遷に関する統計分析を行うことである。 (1)国民所得と人口データを用いて計測される世界的分配における国家間の所得不平等の推移は1990年代には縮小傾向にあるが、この低下傾向の大部分は中国の急速な経済成長によって説明可能であるようである。中国を含む世界160カ国を対象として計測した国家間所得不平等度を示すジニ係数値は1990年には0.580であったが、1994年には0.559に、1998年には0.546へと徐々に低下傾向を示している。しかしながら、中国を除いて再計測したジニ係数値は1990年94年共に0.563、1998年は0.565とほぼ不変に推移している。なお、各国の国民所得は購買力平価により共通通貨のドル表示に換算した。 (2)アジア地域全域全体を対象とした国家間所得不平等度は1990年代半ばから下落傾向が見られる。中国を含む21国・地域をカバーする全域のジニ係数は1990年には0.43であったが,1994年には0.41に,1998年には更に0.38にまで下落している。中国を除く20国・地域のジニ係数はこれよりは大きな値をとるものの,ほぼ同様の傾向を示している。 (3)本年度は特に各国の所得分布を比較するための基礎的な計測手法の理論的考察に力を注いだ。異なった状態にある所得分布の間で経済的厚生の比較を行うための新しい手法として、(通常の相対的不平等概念とは異なる)独自の中間主義的不平等概念とそれに基づく新しいローレンツ曲線基準の提唱を行った。研究成果は"Social Welfare Rankings of Income Distributions"として論文にまとめ日本経済学会秋季大会(一橋大学)で報告した。更にOECD諸国を対象とした所得分布の国際比較においては,この新手法がAtkinson, Rainwater, Smeeding(1995)が得た結論と大きく異なる結論を生み出すことを実証的に確認している。
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