本年度は、労働経済関係の文献を購入し、アルバイト学生を雇い、購入したコンピュータ機器を使って分析・実験・論文・著書の執筆などを行った。 本研究の特徴の一つは、雇用制度(および制度一般)と文化との関係を分析することである。当研究者は、雇用制度において「信頼」という文化的要素がきわめて重要な役割を果たしていると考える。そこで、本年度に発表した論文において、信頼を経済学的・数学的に定義するとともに、雇用制度におけるその役割を分析した。信頼を経済学的に定義した研究は今までになかったといえよう。信頼に関する既存の学説には多大な誤りがあることも明らかにした。またゲームの実験やアンケート調査も行い、現在その結果を分析中である。 年功賃金制に関する実証分析も進行中である。現在、労働者の高齢化指数を作り、その変化と年齢別賃金較差の変化との関係を調べている。それによって、労働人口の高齢化と賃金プロファイルの勾配との間には負の相関があることが検出されつつある。 さらに現在著書を執筆中で、雇用制度と文化の関係などを広い範囲にわたって理論的・実証的に分析している。既存の制度論には文化的な考察が欠如しているので、この研究によって経済や制度に対する新しい見方を提起することができると考える。日本経済の将来像についても考察を進めている。グローバリゼーション、情報通信技術の進歩、アジアの途上国の追い上げ、少子高齢化などが、わが国の経済に重大な影響を与えている。こうした条件の下でのこれからのあるべき制度を考察している。
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