本研究の成果は、著書「文化・組織・雇用制度-日本的システムの経済分析」といくつかの論文に結実した。同書は文化が制度や組織の形態および経済の効率性に対して強い影響を及ぼすことを明らかにした。これは今までの経済学になかった主張で、取引費用・不完備契約・自由裁量の余地・相互依存性・信頼などの概念から導出された。高信頼社会においては、終身雇用制などの高雇用保障によって組織の効率性が高くなることをゲーム論によって示した。また条件を変えたゲームの実験によって、効率を高めるいくつかの方法をテストした。 本研究では経済における信頼の意義を詳しく分析し、信頼を数学的・経済学的に定義することにも成功した。日常的に使っている単純な意味から出発して、最も一般的には、フォン・ノイマン=モルゲンシュテルン流の効用関教を使って、信頼を確率概念として表現した。 さらに本研究は、年功賃金制の特徴である右上がり賃金プロファイルに関する分析も行った。当研究者が開発したライフサイクル賃金モデルは、高齢化が賃金プロファイルの勾配を下げることを予測するが、実証によってそうしたことが生起していることを明らかにした。またアンケート調査によって、一般の人々の賃金プロファイルの形状に対する選好も分析した。 1990年代は戦後の日本が経験した最悪の期間であり、最悪の事態はいまだに改善されることなく継続している多くの解雇は行われたが企業の業績は回復していない。経済の文化的分析は、単純な解雇戦略では経済が良化しないことを示唆する.
|