本年度は本研究の最終年度にあたるため、主に国内の最新の状況について調査を実施した。労働市場の規制緩和政策のもとで拡大している業務請負について業界団体や主要企業を対象に聞き取り調査を行った。自動車や電機産業の大企業の製造ラインにおける業務請負のかなりの部分についてもあてはまるが、特に軽作業請負(物流、インベント会場の設営、運送など)の場合、業務ごとに請負代金を決定するのではなく、派遣する労働者の人数と就労時間に応じて請負単価が決められており、実態としては労働者供給事業の性格を帯びている。今日の大量失業解消をめざして労働市場の規制緩和を推進することは(例えば労働者派遣事業の一層の自由化など)最終的には労働者供給事業の解禁につながることが予測される。1990年代後半以降の雇用統計を分析した結果、労働市場の規制緩和によって正規雇用の非正規雇用への置換が進んでいることがより鮮明になった。雇用創出の内容を検討するならば、規制緩和は雇用労働者数の増加よりもむしろ雇用の短期化、断片化に貢献していることが示唆される。 次に、「労働市場の規制緩和による雇用創出」と対極に位置する「公的就労事業による雇用創出」について、1999年に始まった緊急地域雇用特別交付金事業(2002年度より緊急地域雇用創出特別交付金事業に名称変更)を対象に各都道府県の実施状況を郵送により調査した。そのうえで失業者を多く抱えている県(北海道、青森県、福岡県)や市(旭川市、直方市、飯塚市)を訪問し聞き取り調査を実施したが、同事業が失業者の就労機会提供にとって重要な役割を果たしていることが明確になった。また同事業で実施する作業内容や委託先によって失業者吸収の度合いにも差異が生じていることがうかがえた。失業者を組織している団体が事業の委託先となっているケースが失業者に仕事を提供するうえで積極的な意味を持っていることも調査のなかで明らかになった。
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