本研究は、(1)労働市場の規制緩和による雇用創出と公的就労事業による雇用創出とを比較し雇用創出にとってはいずれが有効かについて吟味すること、(2)この点を他の先進国と比較して研究することである。 まず、日本の労働市場の規制緩和に関しては、労働者派遣事業の自由化および業務請負の広がりに注目し調査を行った。これらのなかには現行職業安定法に抵触する疑い(労働者供給事業)も見られた。これらの規制緩和の結果、雇用総量の増加というよりも雇用の短期化、断片化が進んだと考えられる。このことは、1990年代末から今日にかけてマクロレベルにおいて、正規労働者が減少する一方、種々の非正規雇用が大幅に増加し、就業者数自体も減少傾向をたどっていることにも示されている。スウェーデンでも労働者派遣事業の自由化が進んだが、労働組合と業界組織との労働協約が確立していることもあって派遣労働者の労働条件は日本よりもはるかに確保されている。 次に、労働市場の規制緩和の対極に位置する「公的就労事業による雇用創出」について、1999年に始まった緊急地域雇用特別交付金事業を対象に各都道府県や主要な市の実施状況を調査した。同事業が失業者の就労機会確保にとって重要な役割を果たしていることが明確になった。また同事業の事業内容や委託先によって失業者吸収の度合いにも差異が生じていることがうかがえた。スウェーデンでも民営化の動きが進んでいるとはいえ、福祉部門をはじめ公的セクターの比重は依然として高いため、そこでの雇用創出規模は日本よりもはるかに大きい。 日本では雇用機会を細分化する点では労働市場の規制緩和は効果を発揮しているが、雇用総量の実質的増加という点では労働市場の規制緩和よりも公的就労事業の方が効果が大きいと考えられる。しかし、現行の緊急地域雇用創出特別交付金事業は就労期間を短期間に限定しているため安定的な雇用とはなり得ていない。
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