本研究の目的は、中国における社会保障制度改革の実態とその問題点について、中央と地方の両方から検証することにある。本研究は3年計画で、今年度はその最終年に当たる。 初年度の研究では、まず中国全体の社会保障制度改革の進展状況を把握し、かつ関連資料の収集に重点を置いた。国家計画委員会マクロ経済研究院人力資源研究室主任の楊宜勇氏と意見交換した。また、青島海洋大学の徐暁慧氏の協力を得て、青島市の社会福祉施設を訪問取材した。これらの成果の一部は、「中国における"制度化された市場経済"構築の可能性」『国際問題』2001年3月号として発表された。 第2年度の研究では、ひきつづき中国全体の社会保障制度改革に関する調査と資料収集を行うとともに、上海市についての調査と取材にも着手した。中央レベルでは社会科学院社会学研究所の邵道生氏に取材した。とくに上海における障害者、老人、孤児の福祉を中心に社会福祉関係の現状について調べた。他方で、外資系企業の進出や私営企業の発展によって、社会保険の分野での制度改革の進展は著しい。これらの分野における調査の成果の一部は、拙稿「改革・開放後中国と東アジア」(『東アジア経済の軌跡』青木書店、2001年所収)や拙稿「中国における改革・開放政策と市営・民営経済の展開」(『急成長する中国の私営企業』日中経済協会、2001年所収)として発表した。 最終年度は、青島、諸城、大連において現地調査と資料収集を行った。これらの調査と過去2年間の研究とを踏まえて、中央レベルと地方レベルからみた社会保障制度改革の課題を探った。そこで明らかにしたのは、中国の社会保障制度改革が社会保険化・市場化の推進によって閉鎖的・特権的システムを打破しようとしているが、中央・地方行政のタテ割りのために必ずしも成功していない点である。その成果の一部は、「中国の社会保障制度改革と社会統合」『アジア経済』2003年5・6月合併号(掲載予定)等としてまとめた。
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