本年度初期は、昨年度末から継続して、政策シミュレーション分析の準備を行い、シンプルなマクロ・モデルによるシミュレーションの準備は完了した(地主敏樹、「金融政策のシミュレーション分析: forward-looking vs. backward-looking」、神戸大学mimeo、2001年)。本年度の中盤以後は、金融政策のより短期的な運営と、財政政策とのポリシー・ミックスとを検討した。 短期的運営に関しては、政策情報の公開促進が政策効果にどう影響しているかに焦点をあてた。金融政策運営の秘密主義からの転換は、先進各国に共通したトレンドであり、革命的であるとも考えられている。金融制度改革の自由化が進展しかつ物価が安定しているというデリケートな状況においては、金融政策行動に対する誤解を回避しかつ意図を理解されることが重要となる。アメリカのケースの実証分析では、 ・注目された1994年2月の改革(金融政策変更の即時発表)以後に、短期金利の目標からの乖離が減少していることが、観察された。 ・しかし、政策行動から諸金利への波及スピードは、この改革以前の1980年代後半に早まっていたこと、が検出された。 米国の短期金融市場において、1994年2月の改革は改善ではあったが、すでに進行していた政策情報公開促進の基本方針上の1ステップに過ぎなかったと評価できよう。 財政政策とのポリシー・ミックスに関しては、日本の1980年代後半以後の政策運営ルールをそれ以前と比較する手法を用いた。 ・バブル期は財政引締め+金融緩和、バブル崩壊後は金融緩和不足なのに、財政政策は90年代前半は普通、後半も緩和→引締め→緩和と変転した。 ・両政策の相互関係を調べると、バブル前にはほぼ独立に運営されており、バブル以後には、相互に他方の不足分を補うような運営が部分的には実施されてきたことが、検出された。 「補完性」は、バブル生成と崩壊という大きな経済変動とその後の長期停滞期において、金融政策と財政政策とが一致して引締め・緩和を実施したことがほとんどないことを意味している。
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