金融政策の現実の運営は、ほとんどのシミュレーション分析が仮定している単純な世界とは大きく異なる。論文「金融政策ルールの現実的側面:学説の展望と日本銀行の情報優位?」では、金融政策ルールが一見単純でありながら自然率水準のGDPや自然利子率といった観察不可能な変数を含むために現実への適用が意外に難しいことを指摘し、リアルタイムデータの重要性や金融政策の慣性の解釈と構造変化の影響を論じて、最後に金融政策当局が政策実施時点で有している情報を評価した。経済予測の精度を民間シンクタンクと比較すると、日本銀行は自ら作成しているWPIについては情報優位をもち、実質GDPについても優れており、CPIについてもほぼ互角であるとの結果になった。 近年の金融政策運営は、過去と比べて、大きな変化を遂げた。論文「金融政策の革命=秘密主義との訣別;日米欧の経験と学説の展開」では、カナダのインフレ目標の経験から始めて、金融政策に関する学説の変遷と主要3極の金融政策運営の経験を検討した。インフォーマルな形ではあるが、近年の主流となった動学的一般均衡モデルにおけるクレディビリティについて考察し、金融政策行動に関するクレディビリティの向上がマクロ経済パフォーマンスを改善することを示した。秘密主義の金融政策運営を想定していた時間非整合性モデルからの学説の転換が、インフレ目標制度を正当化することを論じ、主要3極においても金融政策に関する情報開示が物価安定化とともに進展しつつあることを示した。 デフレーション下の金融政策運営は困難であり、財政政策との協調が望ましい。「ポリシー・ミックスの検討-1980年代後半以後の日本マクロ経済政策-」では、1990年代の日本において、両政策が同時に通常以上の拡張を志向しなかったことを示している。デフレーションの克服には不十分な政策運営だったと評価できよう。
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