本研究の主要目的は、公益事業における費用構造の分析を行い、その産業における競争導入の可能性の検討や、公共セクターが民間セクターに転換していく際に、効率性を中心としたパフォーマンスが、どの程度向上したのかを実証的に分析することである。そして、これらの一連の分析を通して日本の公益事業に対する政策提言を行うことを目的とする。今回行った公益事業における具体的な分析対象は、水道事業、鉄道事業、郵便事業、及び地方公共サービスの4つである。これらの事業を分析対象に取り挙げた理由は、次のとおりである。第一は、公益事業の中で特に改革が強く望まれる事業(たとえば、水道事業や郵便事業)である。第二は、各国の公益事業改革の中で先駆的な改革が進められている事業(たとえば、鉄道事業)である。第三は、現在の世界的な潮流である民営化や民間的経営手法の活用の可能性が検討されていることが挙げられる。 このような観点から、我々は具体的な実証データを収集し、計量経済学の手法を用いてできる限り定量的な分析を行った。これらの一連の分析結果からいろいろな政策情報を得ることができた。その中で特に有益な政策情報としては、(1)水道事業の最適規模は、給水人口で約76万人であること、(2)郵便事業において小包における民間参入の効果はあるが、郵便局自体には費用削減などの効果は顕著にみられない、(3)鉄道事業における上下分離政策は、メンテナンス費用の圧縮には必ずしもなっていない、(4)民営化によって、費用削減の効果は確かに認められた、ことなどが挙げられる。
|