本研究の目的は、今日変化を遂げつつある日本的雇用慣行について、その変貌の実相を事例調査を通じて実証的に明らかにすることにある。結果として、日本的雇用慣行の構成要素の中で、いわゆる「年功賃金」に研究成果は絞られることになった。 本研究ではまず、日本の基幹産業である自動車産業の大企業B社における1990年代のホワイトカラーの人事管理に焦点を絞り、93年改定により実施された期間考課の詳細と、99年改定後の人事考課の仕組みの要点を明らかにした。ブルーカラー以上に能力主義管理が進展しているホワイトカラーの人事・賃金管理が、日本を代表する大企業でどのような様相をみせているかを、その論文では考察している。 次に、同じ自動車産業内の他の大企業C社を対象として、1980年代から90年代にかけてみられた人事・賃金管理の展開と、それへの労働組合の対応を分析した論文を執筆した。そこでは、C社の評価制度とその運用、それに対するC労組の規制を論じており、賞与(一時金)の成績加算部分の比率の縮小など、C労組の賃金政策の影響を受けた同社の賃金実態の変化が解明され、能力主義管理に対する組合員の意識の実相も認識されている。 続いて本研究では、自動車産業の中小企業の人事・賃金管理や雇用管理を考察した。その論文において、90年代の中小企業の査定制度の実態が解明されているとともに、この時期の中小企業の雇用調整についても説明されている。 さらに、これまで述べてきた自動車産業の日本的雇用慣行の変化に関する論文のみならず、他の産業での変化も視野に収める観点から、鉄鋼業についても資料収集し、日本鉄鋼業の代表的な大企業S社における1981年の定年延長時の賃金制度改定をめぐる労使の議論の詳細を考察した。 以上のように、本研究は主として自動車産業と鉄鋼業の「年功賃金」の変化について、従来の研究史における不十分点の解明を果たした。
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