本研究では、ハイテク製品貿易の流れを数量的に確認する作業をおこない、日本とアジアの国際分業関係の変化とその背後にある構造を分析するとともに、その背後にある理論的課題と理論モデルの試論の提示をおこなった。 数量的なハイテク貿易構造の把握においては、基本的にSITC Rev.2に基づいて、OECD分類を基礎にしたSOEC (Statistical Office of the European Communities)の定義に従い142の商品を選択した。それに従い、日本とアジア諸国間のハイテク商品貿易の動向を1978年から1998年にかけて分析している。分析は2つの部分から成立している。第1に、産業分類に基づいた製品別の貿易動向の分析と、第2に、消費財、中間財、資本財という三つの分類に基づいた貿易動向の分析である。また、ここで対象となっているアジア諸国とは、(1)アジアMES:韓国、台湾、シンガポール、香港、(2)ASEAN:タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、(3)中国である。加えて、分析指標として、1国内部の製品間の比較優位と、2国間の同一産業における製品の国際競争力の比較という、2つの指標を用いて分析している。 日本を中心にしたアジアとのハイテク貿易の特徴は、中間財の輸出が急激に拡大し、消費財の輸入が急激に拡大していることがあげられる。また、このような輸出入の構造は、電子機器の輸出の増加と通信映像・音響機器の輸入の増加に対応している。加えて、地域別ハイテク貿易構造の特徴は、輸出入ともアジアとの貿易が拡大し、なかでも、ASEAN4と中国の貿易の拡大が顕著である。 このような変化の背景には次のような構造がある。第1に、直接投資が大きく影響しており、アジア諸国のハイテク貿易の輸出と製造業の直接投資の間には相関関連が見られる。さらに、第2に、日本アジアとの貿易関係の拡大は、最終財の市場としてアメリカがあって初めて成立するもので、その点で、中間財の貿易は、直接投資および最終消費市場としてのアメリカを抜きには考えることが出来ないといえる。理論問題として、中間財貿易が顕著な特徴であるならば、この貿易を説明する論理が求められる。それは、HOS理論に依拠するのではなく、余剰理論に基づいたりカード貿易理論に依拠することにより説明できることを示唆した。
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