空間障壁(輸送費、保険料等で計測される)を低減させるための、企業、消費者、政府による各種活動は、経済発展、産業構造転換、技術革新と呼ばれている活動と密接に関連している。蒸気機関、自動車、電話携帯電話、モバイルパソコン、ラジオ、テレビは、それ自体を所有・消費することが目的ではなく、それらと利用することで、空間を克服すること(人、物、情報を移動させること)を目的としている。 ミクロ経済学では、通常、空間の存在および空間障壁は理論上の仮定から捨象されている。しかし、現実には、空間障壁を低減させる人間活動は、経済発展のダイナミックな過程そのものである。必要とするわずかな商品・サービスを購入するためには、無空間ならば不必要な巨大な一連の空間克服システムを必要とする。空間障壁を低下させるためには、巨大な一連の空間克服システムを構成する5つのサブシステムを適切に組み合わせなければならない。 第一のサブシステムは、工業化による商品のモバイル性の向上である。牛乳からチーズ・バターへの変換、携帯電話モバイルパソコンなどが該当する。第二のサブシステムは、自動車、電車、コンテナ船・航空機などの輸送手段である。第三のサブシステムは、輸送手段を機能させるための社会資本(線路、港湾、空港、道路等)である。第四のサブシステムは、輸送手段、通信手段をもとに、社会資本を利用しながら人、物、情報の移動というサービスを提供する運輸・通信業である。第五のサブシステムは、オフィス、住宅、工場の立地行動の変質と空間構造の再編である。 第五のサブシステムは、都市、クラスターとして注目を集めている。クラスターについては、ハーバード大学教授のマイケルポーター教授を研究会に招き、討論を行った。クラスターについては、2003年秋に、一橋大学の石倉教授、京都大学の藤田教授、北海道大学の金井教授と共同で有斐閣より出版することにしている。
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