咋年度は、海外における開業の決定要因を分析している研究成果をサーベイした。これと比較するために、今年度は我が国における開業の決定要因を分析している研究成果をサーベイした。我が国ではこの種の研究は開業者へのアンケート調査を通じて行われる場合が多い。記述統計による分析はあるが、計量分析をしたものは必ずしも多くない。その決定要因をみると、自分の能力を試すため、組織に縛られず自由に仕事がしたい、など精神的あるいは開業者の特質を指摘するものが多い。他方、失業中なので(プッシュ仮説)とか、稼得所得を増やしたいから(プル仮説)という経済的要因を指摘するものは少なかった。 前年度に行った海外での研究成果と比べてみると、とりわけ海外では決定要因として、限界所得税率が重視されていた。一方、我が国では相続税や所得税などの税制が開業意欲に与える効果を分析するものは、ほとんどない。多くのアンケート調査をみても税制上の優遇策を希望する開業者の比率が高いにも関わらず、意外にも税制を説明変数として利用するものはなかった。 また、中小企業の後継者問題が深刻化しつつある現状において、中小企業間における合併・買収(M&A)等による新たな開業動向を分析する研究例もほとんどない。同じことは、海外の研究についてもいえる。従来、その経済的・社会的影響が大きいことから大企業によるM&Aが注目されがちであるが、効率的でないといわれる中小企業間でのM&Aは効率性を促進する側面がある。さらに後継者問題を解消する有効な政策でもある。 今後の研究課題として、1.従来の説明変数に限界税率を加味し、これが開業意欲に与える効果を計量分析すること、2.中小企業間におけるM&Aによる新たな合併の実態(方向、相手規模、業種など)を数量分析するとともに、その効果を計量分析すること、などの必要性を解明した。
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