本研究では、産業の活性化(新規立地、付加価値・雇用の拡大、生産性上昇等)をもたらす重要な要因の一つである産業の集積効果の有無と大きさを分析してきた。 本年度においては、中村が集積効果の分析フレームワークを構築し、小滝がデータセット(工業統計表及び賃金構造統計基本調査由来のデータセット)を整備した。そして、この分析モデルとデータセットにより、以下の分析を行った。 ・同業種の集積が産業の活性化に及ぼす効果は、比較的近距離の範囲でプラスの効果を有し、新規立地や雇用の拡大の効果を有することが示唆された。 ・異業種の集積が産業の活性化に及ぼす効果は、比較的広い範囲における産業構成の多様性が、新規立地や雇用の拡大にプラスの効果を有する一方、絶対的な製造業の密度そのものは、産業の活性化をもたらさず、製造業の高密度地域においては、その後の産業の立地や雇用拡大が抑制される傾向があることが示唆された。 ・製薬産業を例にとった詳細な分析では、研究開発型産業においては製造現場の立地条件は、生産性や雇用の拡大にあまり大きな影響を与えておらず、むしろ本社や研究機能を有する事業所の立地が、遠隔地の製造現場の生産性や雇用に影響を及ぼしていることが示唆された。立地環境の産業集積からの影響と、企業内での情報やノウハウの伝達とでは、後者の方が大きいことが示唆された。
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