1、平成12年度は、長野県伊那市の2農業集落(東春近地区榛原40戸、富県地区北荒井42戸)の農家聞き取り実態調査を実施した。これらの農業集落は、すでに1977年と1989年の過去2回調査を実施してきたもので、この調査によってこの間の農家の生活と仕事の状況について新しい変化を捉えることができた。 2、農業経営、農家の就業、農家世帯員の動向などの側面から、それぞれの農家世帯の変化を総合的に把握することに務め、農村の変化を農家の階層的な変動として把握することとした。その結果、おおよそ以下のような事実を析出することができた。 (1)農業経営の変化としては、その長期的な衰退を確認することができた。新しい動きで特に顕著なものとしては、農機具の買い控えが兼業農家の大多数に進行していることを指摘できる。(2)農村の就業問題としては、地域労働市場の「溶解」現象を指摘することができる。これまで地域労働市場は"昼飯に帰れる距離"を前提に成立していたのであるが、この条件が解消された。賃金などの改善がないにもかかわらず、地域労働市場への労働力流出が止まっていない。(3)その結果、農家における零細所得積み上げの仕組みが壊れ、農家は若年労働力の「寄宿舎的」性格を強めている。 3、こうした農村の状況変化の中で、農家の生活不安定化が進み、農村における最低限の社会的な保障の必要性が高まりつつあることが確認された。 4、今年度以後の研究としては、今回の農家実態調査の結果をさらに詳細に分析し、農村において、必要とされる、就業や生活の社会的保障がどのようなものであるべきかを農家階層毎に明かにし、保障の体系をいかなるものにするかを検討することが課題となる。
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