平成14年度は、本科学研究費補助金の最終年度になるため、これまでの調査分析結果をまとめる作業を中心に研究活動を行った。平成12年度に実施した農家実態調査の分析結果として、農家の階層的な変動の特徴を、BIII農家(不安定兼業農家)のBII農家(常勤的兼業農家)とBIV農家(高齢者のみの農家)への分解と特徴付けた。こうした農家の階層的な変動の背景には、日本経済における長期にわたる雇用状況の悪化があるものと考えられる。農外における雇用状況の悪化が農家の階層変動にどのように影響しているかという観点で現時点の農村・農家の状況を整理・検討することが必要となった。 そうした視点で農家実態調査の結果を位置付けしてみると、農家・農村が置かれている経済的な位置はかつてとは大きく異なったものとなっていることが判明した。つまりこれまで農村・農家の日本経済における役割は、労働力の供給源としてのそれが大きかったが、今日では供給源としてよりも農外労働力の還流の場としての役割が強くなっているのである。特に調査地域は、かつて農村工業が活発に地域に浸透したところであったが、それの多くが、今日、海外移転し、いわゆる「産業空洞化」してきている。 こうした新しい状況の下で、農家労働力の動きは、自家農業への求心力を相対的に強めてきている。この求心力の強まりを、農業経営の強化にどこまで活用していくことができるかを判定しなければならない。調査地である長野県伊那市でも、具体的に農業インターン研修生制度や、「退職農業の会」などの動きもあり、これらの動きについての実態調査を行い、それを通じて農村への労働力還流の性格やその強さについての分析を行い、統計的な検討も行って、報告書の作成を行った。
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