研究概要 |
今年度は長野県内の新たな産業高度化のための取り組みを追跡してきた。ことに長野県産業の競争優位は県内各地域の産業集積上に確立されてきたのであるから、産業集積の再構築がここでは問題となる。とはいえ、現在その方途も決して明るいわけではない。経済産業省の「産業クラスター計画」,文部科学省の「知的クラスター創生事業」に代表されるクラスター形成に望みを託すかの様相を呈している。産業集積の再生がクラスター形成を志向せざるを得ない理由は二点ある。まずはこれまでの各産業集積の「比較優位」がグローバル競争のなかで漸次低下していると考えられている点である。そして新たな「比較優位」は新規の作業としてみると,大きく分類するとIT関連,医療・バイオ関連,ナノテク関連に見い出され,こうした分野でイノベーションを実現するためには,現場主義的な生産技術の蓄積だけでは対応することができず,大学等の研究機関との連携が不可欠と考えられている点にある。 長野・上田地域知的クラスター創成事業は,信州大学と地域産業を長年支えてきた企業が連携し,ナノテクノロジーを中心とした共同開発によって,新製品を生み出し,既存産業の競争力向上,新産業の創出,雇用機会の増大を目指すものである。その商品群としては,信州大学における高度なナノテクノロジーを実用レベルのものにし,それを基盤として高性能で優れた機能のデバイス(素子・部品),応用商品群が考えられている。具体的にはナノカーボンコンポジットによるスマート機能デバイスと機能性ナノ高分子材料によるスマート情報デバイスである。 前者については,信州大学工学部を中心として,Endo fiberならびにカーボンナノチューブをベースに,熱伝導性,導電性,高強度性,超精密加工性,高耐摩耗性など,全く新しい機能を有する革新的な機能デバイスや複合モジュールの開発がすすめられ、後者については,信州大学繊維学部を中心として,新たな光デバイス等としての有機半導体レーザの研究開発を行い,有機LED素子技術の開発とそれらをベースとした応用製品開発が進められている。ここに多くの中小企業も参加しており、その波及効果、新たな雇用創出も期待できるのである。
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