本研究の目的は、1900年から2000年までの100年間のアメリカにおける巨大企業の取締役会のメンバーと執行役員の経歴を調査することによって、アメリカの巨大企業におけるコーポレート・ガバナンスのあり方の歴史的変遷を明らかにすることであった。そのため、1899年から20年おきに上位25社の取締役と執行役員の経歴に関するデータベースを作成し、それにもとづく分析がなされた。 取締役の分析からは、20世紀初頭の所有者支配から経営者革命による経営者支配の確立、次いで株主反革命による株主主権の回復、所有の復権という、歴史の大きなモメンタムの作用が確認された。しかし現在進行中の事態は、その白黒をはっきりさせるに至っているとは言えず、一層の検討が必要である。 次に、執行役員の分析が行われた。執行役員の場合、すでに戦前期にその圧倒的多数を内部昇進者が占めるに至っており、執行役員における経営者革命は、戦前段階でほぼ完了していたといってよい。 戦後の執行役員の分析は、主として、勤続年数と学歴についてなされた。勤続年数の分析からは、1959年までにすでに内部昇進による経営者の内部労働市場が確立していたことが明らかとなった。しかし、1999年の分析では、内部労働市場に代わって、外部市場が積極的に利用され始めたことが明らかとなった。しかし、内部労働市場も依然として強固であることも示された。 学歴の分析は、戦後、大学卒は経営者の学歴の標準となり、そのご、高学歴化が進展したことを明らかにした。さらに明らかになった最近の事態は、学歴の標準が大学院卒以上に移ってきており、これは企業特殊的な知識に代わって、専門的な知識を武器として外部労働市場で活発に活動する経営者が登場してきたことを意味すると考えられる。 以上のような最近の変化は、従来の経営者支配的なコーポレート・ガバナンス構造を大きく動揺させ始めたといってよい。
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