本研究は、近世上田領上塩尻村(長野県上田市大字上塩尻)の蚕種商人たちの蚕種取引構造・特徴・歴史的変化を明らかにしようとするものである。本年度は、昨年に引き続いて資料の調査と整理・分析を行い、以下のような研究実績をあげることができた。 I 史料調査と史料整理 (1)福島県伊達部梁川町中村佐平治家文書・大竹惣兵衛家文書の調査とマイクロフィルム化 (2)上田(馬場家・山崎家)および福島(中村家・大竹家)の史料の整理(マイクロフィルム含) (3)近世期上塩尻村の養蚕家(蚕種商人)の確定と家相互の関連をフォローするための「村内屋敷地図」の調査とトレース作業 II 史料分析 (1)上塩尻の佐藤嘉三郎家と原与左衛門家、また福島中村家・佐藤与惣左衛門家等の養蚕日記等を利用して奥州信達地方とその近辺で行われた「切り出し」種の製造と「本種」および「半取種」の生産動向について分析中であるが、これまでの分析を通じて、19世紀初頭以降幕末に至るまで、養蚕家の大小を問わず違法とされていた「半取り種」が生産多く製造され、またその生産量が時代とともに次第に多くなる傾向を掴むことができた。 (2)蚕種の仕入れや販売にあたる際、蚕種商人の家同士の結びつきの如何が問題となるが、幕末・明治初期の村内屋敷地図をベースとして、元禄期以降の屋敷配置および家(ここでは世帯)、そして村内の諸諸組織(組・講・同族)の関連が明かとなり、彼らがけっして社会的にも商取引上も相互に独立自営の経営体であったと考えることはできないことが判明しつつある。 以上、分析作業は継続中であり、次年度には具体的な成果を示すことができるものと予測される。
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