研究期間内における研究成果は以下の如くである。 平成12年度から14年度まで、本科学研究費補助金によって、長野県上田(市立博物館・上塩尻諸家)、群馬県前橋(文書館)、福島県福島市・桑折町・梁川町等の史料館等に所蔵されている蚕種業関係の古文書史料群を調査することが叶い、蚕種取引関係の文書を多数マイクロ撮影(途中からデジタル・イメージでの撮影)およびコピーで収集することができた。なお、蚕種取引の川下にあたる生糸の取引構造との関連を調べるため、関東・奥州養蚕地帯(蚕種販売市場でもある)から生糸を買い集めていた近江商人(中井家・外村家)の史料調査(滋賀大学史料館)も実施することが出来た。 以上の資料調査・収集作業を通じ、近世後期の上田上塩尻村を中心とする蚕種取引構造の実態を明らかにすることができた。分析の結果は、次の三つにまとめられる。第一に、上塩尻村とその蚕種商人たちの活動は、18世紀末以降の信州上田領内で蚕種業発展の中心だったこと。第二に、上塩尻村蚕種商人の蚕種取引の特徴は、蚕種取引市場において彼らが地道につくりあげた生産と流通の仕組み-自家製造、出張生産(切り出し)、外部仕入れ、そして「種場」販売市場における長期的信用取引といった生産と流通の仕組み-にあったこと。第三に、蚕種商人たちの取引活動の社会基盤となっていた家や家族は、近世村落社会内におけるイエや同族といった姿とかたちをとっていたのであり、近代以降一般化する個々独立した家族小経営ではなく複雑な村会関係をもってしいたこと。以上である。詳細は、研究成果報告書としてまとめた。
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