本年度は、国内では、沖縄(主として、八重山地方)、海外では、台湾を研究対象として、資料の整理及び検討を行った。具体的には、琉球王朝が蓄積した行政史料である『琉球王朝評定所文書』と中国等との交易の記録である『歴代宝案』から疾病に関する記述を抜き出した。また、沖縄県行政資料として『沖縄県統計書』等及び米軍占領関係文書(国立国会図書館、沖縄県立公文書館所蔵)に関しても疾病に関する資料の整理に着手した。こうした作業は、本研究の課題を明らかにするための基礎的な作業である。 台湾に関しては、未公刊史料である台湾総督府公文書(台湾省文献委員会所蔵、台中)及び公刊された行政資料から疾病に関する記録を抽出する作業を開始した。 以上の作業のため、那覇、石垣及び台北での資料収集を実施した。 現在の段階は、依然として初歩的なものにとどまるが、沖縄及び台湾における疾病構造の推移を、特に感染症の動向を中心として把握することができた。本研究は、当初、マラリアに注目してきたが、こうした地域の人口動態からみた時、マラリアだけでなく、天然痘、麻疹にも注意を払うべきことが明らかになった。特に、天然痘は、これまで整理した資料の中でもっとも多く記述のある疾病である。しかも、天然痘の伝播は、東シナ海海域世界における商品流通、ヒトの移動の活性化を背景としていたと考えられる。 こうした地域における疾病構造の変化が、食料供給力、流行する疾病の変化(天然痘、麻疹からコレラヘ、また、マラリアの慢性的な流行)を背景としたものであったことは明らかである。また、地震による津波の発生等の自然災害も当該地域の人口動態に大きな影響を与えていた。但し、津波の後の「疫病」の流行がいったいどのような病気であったのかは必ずしもはっきりとは確認できなかった。
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