研究概要 |
平成12年度においては、15世紀〜16世紀ネーデルラント穀物流通における市場統合と制度を考察するにあたっての基礎的な調査のために平成12年10月1日〜10日にオランダおよびベルギーに滞在し、アムステルダム大学レスガー教授、ヘント大学トゥーン教授と今後の史料調査の調整をおこなった。また、科研費でバージョンアップしたSTATA,JMPなどの統計ソフトによるフランデレン諸都市の価格変動の多変量分析をおこなっている。このような実証分析と平行して、現在の市場経済にかかわる現代の経済構造・近代経済学がヨーロッパさらにアメリカを中心に発展したという歴史的経緯がそれらに非普遍性をもたらしているとの諸議論をふまえて、本研究を大きな理論的枠組みの中に位置づける論考をまとめてた論文(4月発行、現在校正中)を著し、市場と市場経済の概念を整理したうえで、ヨーロッパにおける市場の発展がどのような形で現在の市場経済と関わっているのかを検討した。市場は一般的に実際もしくは抽象化された商業的交換(取引)の場を表す基本的概念として多様な形態の取引の場を包括的に表す際にも用いられているが、ヨーロッパ中世都市の市場では、近代経済学の抽象化されたモデルとしての市場に近い形で市場機能が働いており、特権としての自治権に基づく対象者を限定した規制および補完的な社会保障的諸制度の存在がこのような状況を可能にしていたことを明らかにし、その上で、15〜16世紀のフランデレンの穀物流通の状況より、中世から近代に至るヨーロッパの流通におけるこのような市場機能が働く範囲の拡大においては制度的要因とともに地理的・経済的要因によりもたらされていた限定性の存在が、かえって、近代経済学が想定している自由競争のもとで市場機能が機能する取引の存在とその範囲の拡大を可能にしていたと考えられることを明らかにした。
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